信託の働き(効果や機能)をご説明します。
1.信託した財産の所有
2.信託財産の倒産隔離機能
3.委託者の意思の尊重
4.信託した財産の長期的な管理(承継)
信託された委託者の財産は、信託によって、誰のものでもなくなります。
誰のものでもないと言うと奇妙に感じられるかもしれませんが、このようにご説明するのが一番しっくりくると思います。
言い換えれば、委託者はじめ、ご家族様みなさまのものになるとお考えいただいても結構です。
財産が信託されたことを示す方法が、信託法という法律に定められています。
信託財産の種類によって、その示す方法が違いますので、ここでは不動産(土地と建物)を例に挙げます。
まず、不動産は登記という仕組みがあって、法務局で各不動産の所有者が誰なのかを管理しています。
この度、父親(委託者)が不動産を長男(受託者)に信託したとします。
すると、受託者に信託されたとして、形式的には受託者に名義が変更されます。
しかし、同時にこの不動産は信託されたことを示す表示として、登記簿に「信託」と記録されるのです。
「信託」と記録が入ることによって、その不動産が受託者に信託されたとわかるのです。
この「信託」という記録は、自動的に消えるということはありません。
委託者の方(父親)は、受託者(長男)の名義に変わったことに不安を感じる方もいらっしゃると思います。
しかし、そのご心配は無用です。
受託者の名義に変わっても、受託者が勝手に委託者に無断で不動産を転売することはできません。
このように「信託」の登記によって、第三者は「これは、委託者の家族の物になったのだ」と簡単に分かる仕組みが用意されているのです。
不動産に関する信託の詳細をお知りになりたい方は、こちらからどうぞ。
前項で、信託された財産は、誰のものでもなくなるとお話ししましたが、もう少し、説明を加えましょう。
例えば、Aさんが不動産を所有していて、亡くなったとします。
すると、その不動産はAさんの相続人(配偶者や子供)が引き継ぎます。
これはAさんの所有物だったから、その所有者が亡くなったので、相続人に権利が移ったのです。
(相続による財産の承継)
Aさんにお金を貸していたBさんは、Aさんからお金を返してもらえないとしましょう。
このとき、裁判で勝ったBさんはAさんの不動産に差し押さえをかけることができます。
これも当たり前ですが、Aさんの不動産に対して、Aさんにお金を貸していたBさんが差し押さえできるのです。
(債権者による差押)
Aさんが破産することになりました。
このとき、Aさんの不動産は第三者に売られて、お金に換えられてしまいます。
これも、Aさんが破産するからAさんの財産を整理するために、この不動産が売られてしまうのです。
(破産による財産の処分)
話を変えて、A(父)さんがこの不動産をC(息子)さんに信託したとしましょう。
名義は形式的にはAさんからCさんに移っていますが、登記簿に「信託」と記録(登記)されています。
すると・・・
✅ Aさんが亡くなってもAさんの相続人に承継されません。
✅ また、Aさんにお金を貸していたBさんもこの不動産を差し押さえることができません。
✅ Aさんが破産しても、この不動産が破産によって売られてしまうこともありません。
✅ また、名義人となった受託者Cさんが亡くなっても、Cさんの相続人のものでもありません。
✅ Cさんにお金を貸していたDさんが、裁判にかってもこの信託された不動産を差し押さえることもできません。
✅ Cさんが破産しても、破産によって不動産が売られることもありません。
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このように、誰のものでもなくなる(ような)現象が起こるのです。
尚、信託されたらAさんの相続人のものでもなくなると言いましたが、信託契約の中でAさんの不動産そのものや、収益権を誰が取得するのかを決めますので、信託行為の中でAさんの相続人に承継させることは可能です。
信託の働きの3つめとして、
委託者の信託設定時の意思(希望、願い)を長期間にわたって尊重(大切に)します。
委託者の方が認知症になっても、お亡くなりになっても、信託設定の時の希望や願いを大切にして、家族の方は協力して、かなえてくれるのです。
・認知症になってしまえば、資産が凍結されました。
・遺言を書いても、相続人全員で違う方法で話し合いがまとまれば、遺言の通りになりませんでした。
・自分が亡くなった後の障害をお持ちの方の生活を保守する良い方法がありませんでした。
それが、信託によって委託者の願いが実現できる道が用意されたのです。
最後に4つ目として、
設定の方法にもよりますが、信託の期間は長期に及びます。
受益者は1人だけとは限りません。受託者も後任の方が選ばれるときもあります。
資産家の方であれば、資産を受託者(法人)に委託して、長期にわたって管理することができ、相続税対策に役立ちます。
大事な不動産をあらかじめ決めていた順番に従って、帰属させることも可能です。
他家の不動産に流れないように、手を打つことができるのです。