義一(82歳)は、妻咲江さん(77歳)と2人で生活をしています。
義一さんには、長男(浩さん50歳)と次男(良平さん48歳)の二人の子供がいます。
長男浩さんは、奥さんと近くに住んでいますが、子供がいません。
次男良平さんは、奥さんと子供2人(明石さん18歳、米美さん15歳)の4人家族です。
義一さんは、地元の地主で不動産を数多く所有しています。
義一さんの心配事(希望)
・自分が亡くなった後も妻には安定した生活を送ってもらいたい。
・自分が亡くなった後に長男の浩が相続した不動産は、いずれ浩の嫁の物になってしまう。
(子供がいないから、他家の物に不動産が流れてしまい、ご先祖様に申し訳がない)
・できれば、ご先祖様から引き継いでいる不動産は、長男が引き継いでもらった後、次男かその子供(孫にあたる)に引き継いで
もらいたい。
義一さんの財産
・不動産(多数)
・預貯金
義一さんが何も対策を立てなかった場合、どうなるかみてみます。
・義一さんが亡くなったら、妻の咲江さんと、長男(浩さん)、次男(良平さん)で遺産分割の話し合いをしますが、
まとまらない可能性があります。
・特に、妻の咲江さんが認知症の場合、遺産分割の話し合いをするために咲江さんの成年後見人を立てる必要が出てきます。
・長男の浩さんが継いだ不動産は、浩さんが亡くなると、「浩さんの奥さん」と「良平さん」が相続人になる可能性が高く、
話し合いがまとまらない可能性があります。また、奥さんが相続した場合、その不動産は他家に流れていきます。
このように義一さんの最大の悩みは、ご先祖様から引き継いでいる不動産のことなのです。
ここで、義一さんが長男に引き継がせるという遺言を書いて、長男に引き継がせて、そのあと長男の浩さんが弟である良平さんや、
甥姪の明石さんや米美さんに譲りますという遺言を書くことで、なんとかなりそうな気がします。
しかし、長男の浩さんの気が変わって、妻に相続させるという遺言に変更することもあり得ます。
また、遺留分といって、相続人には絶対これだけはもらえるという権利があって、それを長男浩さんの奥さんが主張すると、遺留分に
相当する財産は、他家にやはり流れてしまいます。
そこで、民事信託を利用します。
委託者を義一さん、受託者を新しく設立する一般社団法人とします。当初の受益者は義一さんです。
一般社団法人の理事に浩さんと良平さんが就任します。
場合によっては、浩さんの奥さんにも就任してもらいます。
この信託は期間が長くなると思われます。義一さんが亡くなって、咲江さんが亡くなって、浩さんが亡くなって、良平さんも亡くなるという時間の流れが想定されるのです。ここで長期にわたる信託事務を安定的に進めるために、一般社団法人を受託者とするわけです。
また、浩さんの奥さんの利益を考えて、浩さんには奥さんに預貯金を相続させる旨の遺言を書いてもらいます。
信託を設定しても当分は、従来の通りです。
動き出すのは、義一さんが亡くなったときです。義一さんの次の受益者は、咲江さん。咲江さんが亡くなった次の受益者は、浩さんと良平さんです。その次は、明石さんか、米美さんです。
このように不動産の名義人が義一さんの思い通りに、移り変えることができるのです。